
インタビュー対象者プロフィール
渡邉 盛時 氏
NPO法人 障害者雇用創造センター 理事長
理念に込めた想い

経営理念についてお聞きします。
「社会で活躍できる人材と環境を創造する」これに対する渡邉さんの想いをお聞かせください。
はい。
この経営理念は、会社設立当初からあったものではなく、
経営について学ぶ中で「経営理念とは、会社にとっての目標や判断の軸になるものだ」と改めて考えたことをきっかけに生まれました。
私たちは障害福祉サービスの中で、さまざまな特性や診断を持つ方々の就労支援を行っています。
多くの事業所では、ビジネスマナーや社会性を身につけ、一般企業への就職を目指すことが基本とされていますが、私たちは支援の工夫によって、働き方や就労先の可能性をもっと広げていけるのではないかと考えました。
「社会で活躍できる人材と環境を創造する」という理念には、人材を育てるだけでなく、一人ひとりに合った働く環境や働き方を自分たちで考え、つくり上げていくという想いを込めています。
社名にもある「創造」という言葉の通り、新しい環境や選択肢を生み出し続けることが、私たちの使命だと考え、この経営理念が形になりました。
「一般企業への就職」という部分について、どういうことがここの事業所で学べるのかお聞かせください。
はい。
まず、この事業所では、パソコンを中心としたITスキルを学ぶことができます。
16年ほど前は、まだ誰もがパソコンを使える時代ではありませんでしたが、障害や特性のある方の中には、ITやパソコンに強い方が多くいらっしゃいました。
そこで私たちは、そうした力を活かしながら、新しい仕事のスタイルを作っていこうと考えました。
もともとITカレッジとして移行支援を行ってきた中で、障害のある方が就職に苦労している現状も見えてきました。
だからこそ、ここではパソコンを使った事務作業やITスキルをしっかり学び、一般企業で働くための力を身につけられる環境を提供しています。
そして、その学びを活かして、利用者さん一人ひとりに合った就職先を見つける支援を行っています。
ITだけじゃなく、幅広い仕事がありますよね。
そうですね。うちでは、ITの勉強をベースにしながら、就労継続支援B型の活動も行っています。
事業所では、パソコン訓練や依頼された仕事を受ける業務、施設外での就労体験など、さまざまな仕事に取り組んでいます。
私たちは「地域とともに」という理念を大切にしています。事業所の活動を地域の方々に知っていただき、地域の企業や高齢者の方々とも関わりながら、支え合える場所を作りたいと思っています。
そのために、農業や植物栽培なども取り入れ、外に出て活動する機会を増やしています。
こうして、ITから農業まで幅広い仕事を通して、地域とつながりながら、利用者さんが自信を持って取り組める場を作っていきたいと考えています。
“対話”を大切にする理由
行動指針の一番に“毎日のコミュニケーションを大切にします”が来ているのが印象的です。
技術やスキルよりも、まず“対話”を大切にしているのは、どうしてなんでしょう?
まず前提として、私たちが目指しているのは、「安心して通い続けられる場所」であることです。
その環境をつくるためには、支援の土台となる職員同士の関係性がとても重要だと考えています。

代表・理事長として会社の方向性を示す立場ではありますが、一人で決めたことを押し付けるのではなく、「この方向性に向かって、私たちには何ができるのか」を
職員同士で常に話し合い、考え続けられる組織でありたいと思っています。
日々の対話を重ねることで、現場で起きている小さな変化や気づきを共有でき、利用者さん一人ひとりの可能性を広げるためのアイデアも生まれてきます。
技術やスキル以前に、「話し合える関係性」があることこそが、安心できる環境づくりと質の高い支援につながる。
その想いから、私たちは対話を何より大切にしています。
実際にコミュニケーションを取るためのレクリエーションも沢山ありますよね。
私たちがこうした活動を行うのは、まず「安心して過ごせる環境」をつくるためです。
普段の訓練や仕事、ビジネスマナーの学習の中では、日常的な会話が自然に生まれる場面は限られます。
そこで、みんなで取り組むレクリエーションの中で、自然にコミュニケーションが生まれる仕組みを作ることを意識しています。
支援員も一緒に参加しながら、ゲーム感覚で楽しめる活動を工夫することで、人と人との関係性が深まり、安心して過ごせる居場所が出来上がっていきます。
また、参加者の反応や楽しさを見ながら、「もっと良いレクを作ろう」「新しい方法を試そう」と職員同士で改善を重ね、常に挑戦していく姿勢も大切にしています。
こうして、レクリエーションは単なる遊びではなく、コミュニケーションの力を育む大切な場になっています。
そもそも、どうして障害者雇用という分野に関わろうと思われたんですか?最初のきっかけを教えてください。
正直に言うと、最初のきっかけは「たまたま」でした。
もともと障害者雇用や福祉の分野に関わる予定があったわけではありません。
以前はWeb制作の仕事に携わっていて、友人と一緒にWeb制作会社を立ち上げたこともありました。
制作自体はできたのですが、仕事を継続的に受けていく難しさを感じていた時期でもありました。
そんな中で、グループ会社である株式会社ビジネス・ソリューションの内藤社長と知り合い、障碍者ITカレッジ愛西を立ち上げる構想の中で、「ITを教える役割として関わってみないか」という話をいただいたことが、この分野に関わる最初の一歩でした。
当時は障害のある方と接した経験もほとんどありませんでしたが、利用者さんにWeb制作やコーディング、プログラミングを教えるようになり、少しずつ関わりが深まっていきました。
そうした偶然の出会いと経験の積み重ねが、結果として障害者雇用という分野に関わるようになった原点です。
『できない』をあきらめない支援の原点
理想通りにいかない場面も、きっとたくさんありましたよね。
“できないことをあきらめない”という考え方が生まれた、印象に残っている出来事はありますか?
印象に残っているのは、就労支援の現場で、就職が難しい方をサポートした経験です。
最初は「難しいかもしれない」と思う場面もありましたが、そこで諦めず、なぜ就職が難しいのか、どうすればできるのかを職員同士で考え、知恵を出し合いました。
その結果、本人の強みや適性を引き出す方法を見つけ、安心できる環境で取り組める就職先を見つけることができました。
コミュニケーションが苦手で気持ちを伝えにくい方でも、意欲があることで自信を持ち、就職に成功し、今も継続して働いています。
この経験から、支援の中で「諦めない姿勢」を共有することの大切さや、日々の会議やコミュニケーションで話し合う環境の重要性を改めて実感しました。
コミュニケーションを取ることで、新しいアイディアが生まれたり、前向きな気持ちになれたりすることってありますよね。
はい、コミュニケーションは何より大切だと考えています。
日々のやり取りの中で、本人がどこに不安や慎重さを感じているのか、家族からの相談であれば困りごとは何か、という本質を知ることができます。
表面的な会話ではなく、深く理解するためのコミュニケーションこそが、よりよい支援につながると考えています。
不安を抱える方へ、伝えたいこと
いま不安を感じているご家族の方や、雇用を迷っている企業の方に向けて、
この場所から『これだけは伝えたい』というメッセージがあればお願いします。
まずは、お気軽にご相談ください。
まだまだこういった社会資源を知らない方は多いんです。
だからこそ、「相談できる場所がある」ということを知っていただくことが大切だと思っています。
私たちも、ブログやホームページ、インスタグラム、地域の掲示板やチラシなどを通して、こうした情報を発信しています。
そうして一歩を踏み出していただくことで、皆さんにとって本当に必要な支援や社会資源につなげることができます。
ですので、迷ったり、不安に感じたりしているご家族や企業の方にも、まずは「ここに相談できる場所がある」と知っていただくことを伝えたいです。
そして、私たちと一緒に考えていく中で、新しい可能性を見つけてほしいと思っています。

※この記事は2026年1月の取材に基づいています
取材:スタッフF / 撮影:スタッフM / 編集:スタッフH