障害者雇用創造センター_渡邉理事長インタビュー~就労に悩む親御さんへ、ひきこもりから一歩踏み出すまで~
現代社会において、発達特性や対人関係の悩みから「ひきこもり」の状態になり、生きづらさを抱える方が増えています。お子さんの将来を案じ、「どう関わればいいのか」と一人で悩み、自責の念に駆られている親御さんも少なくありません。今回のインタビューでは、多くの家族支援に携わってきた渡邉理事長に、親御さんの悩みに寄り添いながら、解決への「最初の一歩」をどう踏み出すべきか、専門的な知見を伺いました。

インタビュー対象者プロフィール

渡邉 盛時 氏

NPO法人 障害者雇用創造センター 理事長

親御さんの抱える共通の悩みと不安

「8050問題」や家族間のコミュニケーション断絶について対談する渡邉理事長と取材者の細野氏

最近では、発達特性や対人関係の困難からひきこもり状態にあるお子さんと、その将来を心配される親御さんからの相談が増えています。現場で語られる悩みには、どのような共通点があるのでしょうか。

渡邉

お子さんがひきこもっている場合、多くの親御さんは 「社会との関わり方がわからない」 という点にまず突き当たります。手段がわからず、どう動けばいいのか立ち止まってしまうケースが非常に多いですね。
きっかけは、学生時代の不登校からそのまま接点を失った方もいれば、一度は社会に出たものの職場でのつまずきから退職し、気づけば数年が経過していたという方もいます。

対人関係の悩みや生きづらさを抱え、自室でひきこもり状態にある方のイメージ写真

また、最近では「8050問題」に関連した相談も切実です。
親御さんが高齢介護サービスを利用し始めた際、訪問したスタッフがご自宅にいる40代、50代の息子さんの存在に気づき、それがきっかけとなって当法人のような窓口につながるというケースも増えています。

ご家庭内での「コミュニケーションの断絶」も深刻な悩みです。親御さんは社会と関わってほしい一心で声をかけますが、本人は不安感から一歩が踏み出せず、お互いの希望が食い違うことで、双方がどうしていいかわからず悩み続けているのが現状です。

「自分の育て方のせいでこうなったのでは」と自責の念に駆られ、出口が見えなくなっている親御さんも多いのではないでしょうか。

渡邉

難しいところなんですけども、親御さんは専門知識をお持ちでないため、「本人が甘えているだけではないか」と思ってしまったり、逆にご自身を責めてしまったりしがちです。
しかし、私たちは障害福祉サービスを運営する立場から、ひきこもりの背景には本人の特性理解が欠かせないと考えています。本人が社会に対して感じている生きづらさの本質を正しく理解することは、解決に向けたとても大切なステップになります。

最初の一歩としての「個別相談会」

生きづらさを抱える親子に対して、こちらの事業所では具体的にどのような入り口を用意されているのでしょうか。

渡邉

私たちは定期的に「個別相談会」を開催しています。この相談会の大きな特徴は、「サービス利用ありきではない相談会」であるという点です。いきなり福祉サービスを利用することに抵抗を感じる方もいらっしゃいますし、ご自身に特性や障害があるという認識がない方も多くおられます。
まずは「サービスを使う場所」ではなく「相談ができる窓口」として、私たちの事業所を知っていただくことが第一歩だと考えています。

サービス利用ありきではない「就労・不登校・ひきこもり個別相談会」の案内チラシ 2026/05/30、07/11開催

【個別相談会ページはこちら】

ご本人だけでなく、まずは親御さんや、さらには祖父母の方々からの相談も受け付けていらっしゃると伺いました。

渡邉

はい、おっしゃる通りです。実際、おじいちゃんやおばあちゃんがチラシを見て「孫に合うのではないか」とご両親に勧め、相談につながったというエピソードも何名かありました。

ご本人に診断がなくても、またご本人がまだ動けない状態でも、まずは周りの方が動くことで状況が変わるきっかけになります。主なきっかけとしては、以下のような媒体が多いですね。

  • ホームページ
  • 地域に配布される新聞折り込みチラシ
  • 関係機関(福祉課等)に設置されたチラシ
  • 実際にサービスを利用している方からの口コミ

本人にとっての「勇気ある一歩」を理解する

親子関係が難しくなっている場合、本人にはどのようにアプローチしていくべきでしょうか。

渡邉

たとえ口では「ほっといて」「わかっているから」と反抗的な態度をとっていたとしても、本人にとって最後に頼りにしているのは家族であることが多いのです。本人は、自分でも「何とかしなきゃいけない」ともがいています。
その中で、新しい行動を起こすことには、周囲が想像する以上の大きな勇気が必要です。例えば、「自分の部屋のドアを開けて一歩外に出る」ことさえ、本人にとっては日常を揺るがす大きな変化であり、不安を伴う一歩です。ここで周囲が焦って「これができたから、次はこのステップ」と急かしてしまうと、本人は強いプレッシャーを感じてしまいます。

不安を抱えるお子さんに対し、家族が同じ目線で寄り添い安心感を提供するイメージ

家族の役割として、何より大切なのはお子さんに「安心感」を提供し続けることなのですね。

渡邉

甘えと捉えられがちですが、お子さんがどのような反応を返してきたとしても、一番身近な家族が同じ目線で不安を受け止めてくれるという事実は、次の一歩を踏み出すための心の土台になります。家族という存在が「安心できる場所」であることが、何よりも本人の背中を押す力になるのです。

自己理解を深めるプログラムとIT訓練

実際に事業所の利用が始まった場合、具体的にどのような支援が行われるのでしょうか。

渡邉

当法人の「就労移行支援」プログラムの中では、本人の興味を活かしたアプローチを行っています。その一つが 「ITにチャレンジする」 という訓練です。

ひきこもり状態にある方の中には、すべての方ではありませんが、パソコンやゲームが好きだという特性を持つ方が多くいらっしゃいます。そうした「好き」を活かし、パソコンを使った事務作業やITスキルを学ぶことで、少しずつ就労への意欲を引き出していきます。

支援員が一方的に教えるのではなく、本人のペースに寄り添う姿勢を大切にされているのですね。

渡邉

はい。まずは本人が何に悩み、何に苦手意識を持っているのかを丁寧にヒアリングします。その上で、就労に向けてどのようなステップを踏んでいくのかを「一緒に考えて決めていく」という共創の姿勢を大切にしています。
無理なく一段ずつ階段を上るような「スモールステップ」を大切にすることで、本人の自信と安心感を育てていきます。

現在悩んでいる親御さんへのメッセージ

最後に、今まさに一人でお子さんのことで悩まれている親御さんへ、メッセージをお願いします。

渡邉

一番伝えたいのは、「一人で抱え込まないこと」です。ご家庭内だけで解決しようとすると、どうしてもサポートには限界があります。
まずは、地域の福祉課社会福祉協議会、あるいは「親子の会」のようなピアサポート、そして私たちのような事業所など、外部の社会資源(相談窓口)を頼ってください。親御さんが抱えている悩みを誰かと共有すること、そして「相談できる場所がある」と知ることから道は開けます。

「まずは相談」することから始めてみませんか。私たちは、お子さんが一歩でも社会との関わりを持てるよう、ご家族と共に歩み、全力でサポートしたいと考えています。

「一人で抱え込まないで」と社会資源の活用を呼びかける渡邉理事長と細野氏の取材風景

※この記事は2026年2月の取材に基づいています

取材:細野 / 撮影:松浦 / 編集:細野・平賀