
「働きたいという気持ちはあるけれど、毎日通えるだろうか」「新しい環境に馴染めず、また体調を崩してしまったらどうしよう」——。
就労移行支援の扉を叩こうとする方の多くが抱くのは、こうした「通所への切実な不安」です。「障碍者ITカレッジ愛西」では、この不安を「あって当たり前のもの」として受け止め、誰もが安心して過ごせる場所づくりを大切にしています。
言葉にできないモヤモヤを紐解き、自分らしい働き方へと歩み出した卒業生Tさんの軌跡から、当センターが実践する支援の本質について、障害者雇用創造センターのサービス管理責任者である萬谷はるみがインタビューに答えます。
インタビュー対象者プロフィール
萬谷 はるみ 氏
NPO法人 障害者雇用創造センター サービス管理責任者
相談の第一歩:多様な悩みと「Tさん」のケース

就労移行支援を利用される方は、それぞれ異なる悩みや不安を抱えていると思います。初回のご相談では、どのような方が多く来所されるのでしょうか。
職場の環境や人間関係で体調を崩して離職された方、就職活動に大きな壁を感じている学生さん、あるいは「このままではいけない」と思いながらも長期間家から出られずにいる、いわゆる引きこもりの状態にある方など、背景は様々です。「自分一人で動くのは限界だ」「誰かに相談しながら進めたい」という切実な思いを持って、勇気を出して連絡をくださいます。

そうした不安を抱えながら相談に来られた方が、実際にどのように変化していくのか気になります。印象に残っている事例があれば教えていただけますか。
はい。今回は Tさん という方のお話をご紹介します。
ぜひお聞かせください。
Tさんは以前お勤めだった職場で、仕事内容や対人関係に悩まれたことがきっかけで体調を崩しました。一時は外出も難しく、ほとんど動けない状態になってしまったそうです。
かなりお辛い状況だったのですね。
はい。その後は約2年間、ご自宅で療養されていました。ただ、少しずつ体調が回復する中で、「このままではいけない」「もう一度社会と関わりたい」という気持ちが芽生えたそうです。しかし一方で、長く自宅で過ごしていたこともあり、次の一歩をどう踏み出せばよいのか分からず、大きな不安も抱えてみえました。
Tさんの場合、次のステップへ進もうとした際に 「一人で探すよりもサポートが欲しい」 と感じたそうです。長期間自宅にいたため、まずは外に出て 「誰かと関わること」 に少しずつ慣れ、崩れてしまった生活リズムを立て直しながら就職を目指したい。そんな願いを抱いて、私たちのところに相談に来られました。 「誰かと関わりたい」 という願い。その繊細な心の揺れに寄り添うことが、支援の出発点となりました。
安心を築く「スモールステップ」と信頼関係
Tさんは長期間ご自宅で療養されていたとのことですが、利用を開始される際にはどのような不安を抱えていらっしゃったのでしょうか。
一番大きかったのは、「本当に通い続けられるだろうか」という不安でした。約2年間ご自宅で過ごされていましたので、いきなり週5日、朝から夕方まで通うことを想像すると、とても高いハードルに感じてみえたようです。
Tさんが通い始めるにあたって、どのような設定からスタートしたのでしょうか。
Tさんは「朝が苦手であること」や「毎日通い続ける自信がないこと」に強い不安を感じてみえました。そこで当事業所では、「日数も時間も相談して決められるので大丈夫ですよ」とお伝えし、まずは 週2日、午前のみ という、緩やかなペースで開始しました。
まずは通所することそのものへのハードルを下げることを大切にされたのですね。
はい。面談をしていくなかで、Tさんは「9時までに来なければいけない」「毎日通わなければいけない」といった考えに縛られているように感じていました。まずはその方の今の状態に合わせて無理なく始めること、自分のペースで一歩ずつ進めば良いことを繰り返しお伝えしていました。

また、新しい環境への緊張感だけで体調を崩しやすい方でしたので、まずは事業所を 「安心できる居場所」 にすることを最優先しました。訓練の話ばかりではなく、 「たわいもない話」 を重ねてお互いを知る時間を大切にしたんです。
さらに、当事業所では 「朝礼への参加は強制ではない」 という柔軟な体制をとっています。大勢の前で話すことや輪に入ることが負担な時期は、無理に出る必要はありません。こうした「無理強いされない」という安心感が、Tさんの心を少しずつ開いていきました。
自己理解を深める訓練と、客観的な視点による就職支援
通所にも慣れ、少しずつ自信がついてこられたTさんですが、その後はどのように就職へ向けて歩みを進めていかれたのでしょうか。また、ご自身に合った仕事をどのように見つけていかれたのか教えてください。
最初は「何がしたいのか」がご自身でもわからず、漠然とした状態でした。そこで、パソコンの事務系と軽作業の作業系、両方を訓練していただきました。ご自身で「こちらの方が向いているかも」と肌で感じるプロセスを大切にし、そこに私たちスタッフが客観的な分析を添えて、意見をすり合わせていきました。特に効果的だったのが、Tさんが抱えていた 「モヤモヤの言語化」 です。

Tさんは、何か不安があっても「何にモヤモヤしているのか」がわからず、それが体調不良に直結する傾向がありました。そこで対話を重ね、一つひとつ「何が気になっているのか」を整理し、言葉にしていきました。悩みが鮮明になることで心は安定し、体調のコントロールも利くようになっていったのです。精神的な安定が通所時間の延長を可能にし、週2日から週3日へ、そして最終的には自分が希望する時間数でのパートタイム就職に繋がるという、大きな成果へとつながりました。
定着支援の手厚さと「利用者・支援員」ではない関係性
Tさんは就職後、現在もお仕事を続けていらっしゃるそうですね。就職されてからの様子はいかがですか。
はい。現在も安定してお仕事を続けていらっしゃいます。もちろん職場での悩みが出ることもありますが、月に一度の定着面談でスタッフと話をすることで、その都度解決して元気に職場へ戻っていかれます。今では 「スタッフに会えるのが楽しみ」 と言ってくださるほど、スタッフとの面談に安心感を感じていただいています。この強い信頼関係を支えているのが、「利用者と支援員」という上下関係を作らない、伴走者としてのスタンスです。 私たちは共に考え、共に歩む存在でありたいと思っています。

最初のアクションを起こす勇気
今、不安を抱えながらこのブログを読んでいる方へ、メッセージをお願いします。
このブログを読んでいただいているということが、既に行動につながっている証です。悩んでいること、困っていることがあれば、まずは今の状況を聴かせてください。外に出ることが大変な時は、お電話はもちろん、 メールやLINE でも受け付けています。私たちは「就職」という結果だけを追い求める場所ではありません。あなたが安心して過ごせる場所を、一緒に見つけることから始めたいと考えています。「相談=利用開始」ではありません。まずは気軽にお話ししてみませんか。「来てよかった」「相談してよかった」と思っていただけるよう、私たちは全力でサポートします。

※この記事は2026年3月の取材に基づいています
取材:福本 / 撮影:松浦 / 編集:細野・平賀